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探検言語学

探検言語学

A5判 並製
定価:3,000円+税
ISBN978-4-8329-6805-9 C3080
奥付の初版発行年月:2014年05月 / 発売日:2014年05月下旬

内容紹介

今,世界ではグローバル化が進む一方で,近代文明から隔絶した自然環境のなかで小さな民族が伝統的な生業を営む辺境地域は,縮小の一途をたどっている。それとともに,それらの民族の伝統文化も急速に失われつつある。筆者たちは,つい30年ほど前までは外国人研究者に対して固く門戸を閉ざしていたシベリア北東端のチュクチとコリャークという先住民族のトナカイ遊牧地にそれぞれ単身入り,彼らの言語のフィールドワークを続けてきた。筆者たちのフィールドワークは,物理的な危険性の高さや,分け入る地域の奥深さという意味だけで「探検」なのではない。彼らの学術的な探検は,未知の「土地」をめざすことが,未知の「領域」をめざすこととリンクしたとき,初めて真の意味を持ったのである。筆者たちのシベリアでのフィールドワークは,3つの「領域」に分け入ることでもあった。それは,第一に,地道に「言語の文法」を綴るという言語学の本来あるべき「領域」へ回帰するための探検行であった。第二に,チュクチ語,コリャーク語を世界の言語のなかで相対化するという言語類型論的「領域」への探検行であった。そして,第三に言語をとおして彼らの「文化の文法」を紡ぐという「領域」への探検行でもあった。本書では,未知の「土地」への探検行と,これら3つの「領域」への探検行を有機的に重ね合わせながら,筆者たちの研究の軌跡を活きいきと描いていく。自室のPCに向かい既存の言語データを指で操る「アームチェア言語学者」とはひと味もふた味も異なる,地に足をつけた「フィールド言語学者」の仕事ぶりが伝わってくるはずである。

著者プロフィール

呉人 徳治(クレビト トクス)

1965年に中国内モンゴル自治区シリンゴル盟に生まれる
中国内モンゴル大学大学院修士課程修了(モンゴル語学専攻),北海道大学大学院修士課程修了(言語学専攻),京都大学大学院言語学専攻博士課程修了,東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所助手をへて,現在,准教授 博士(文学)(京都大学)
編 著 『星の王子さま(チュクチ語・ロシア語対訳版)』(東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所,2014)
論 文 「チュクチ語の結合価の変更について」『アジア・アフリカの言語と言語学』4(2010),An Outline of Valency-Reducing Operations in Chukchi, In: W. Nakamura & R. Kikusawa (eds.) Ojectivization and Subjectivization: A Typology of the Voice Systems (Senri Ethnological Studies 77) (2012)

呉人 惠(クレビト メグミ)

1957年に山梨県甲府市に生まれる
東京外国語大学大学院外国語学研究科修士課程修了(アジア第一言語専攻),北海道大学文学部助手,富山大学人文学部助教授をへて,現在,富山大学人文学部教授 博士(文学)(北海道大学)
主 著 『危機言語を救え!─ツンドラで滅びゆく言語と向き合う』(大修館書店,2003),『コリャーク言語民族誌』(2009,北海道大学出版会)など

上記内容は本書刊行時のものです。

目次

目  次
序  章
未知の「土地」と未知の「領域」へ / 私たちがめざした三つの「領域」
第一章 未知の「土地」への探検行
近くて遠い私たちのフィールド / 新旧両大陸の「橋渡し」的言語 / 消滅の危機に瀕した今こそ  
第一節 コリャーク─町から村へ、村からツンドラへ  
空の交通手段 / 陸の交通手段  
第二節 チュクチ─モンゴルからチュコトカへのはるかな旅  
モンゴル草原での少年時代 / 空・海・陸から見放されて / 極北大回りの旅 / 札束をバックパックに詰め込んで / 食料不足に直面する / アル中男との同居 / アパートを警察が包囲する  
第二章 未知の言語との遭遇
言語をフィールドワークする意味
第一節 コリャーク語を調査する  
難航するコンサルタント探し / ようやく出会ったコリャーク語母語話者 / 百見は一聞にしかず / 音声を抽象化するプロセス / 両言語の真骨頂,文法の諸相 / 能格言語としてのチュクチ・カムチャツカ語族 / 動詞の屈折体系における対格型と能格型の混在 / 節連接における対格型と能格型の混在
第二節 チュクチ語を調査する  
チュクチ語を研究対象に選ぶ / 猛勉強が始まる / 初めてのフィールド,ヤヌラナイ村 / いよいよ調査が始まる / 話ができる人間ならば / 文のような長い語 / 複統合性を支える仕組み  
第三章 知の「領域」への探検 言語人類学
言語の文法から文化の文法へ  
第一節 コリャーク語  
生業の現場で調査したい / コリャーク最北の集落クレスティキへ / 自然の恵み豊かなクレスティキ / 戸籍調査 / コリャーク式名付けとロシア式名付け / 伝統的なコリャーク式名付け / マイナス・イメージの名付け / 伝統的名付けの衰退 / 新しいコンサルタント,イカヴァヴさん / 第一三トナカイ遊牧ブリガードへ / 言語民族誌を書きたい / コリャーク・コレクション / 「できごと史」を反映したトナカイの個体名  
第二節 チュクチ語  
思いがけないツンドラ行 / 既存の調査票が役に立たない! / 仔トナカイの屠殺 / トナカイ遊牧の一年と七つの季節 / トナカイ屠殺とタブー /
第四章 未知の領域への探検─理論研究とフィールド言語学
通底する個別言語研究と言語類型論 / 『言語構造の世界地図』 / 「テントは寒い」に二通りある! / 属性叙述文は異常な文 / 属性叙述専用の形式がコリャーク語にはある! / 日本語方言にある事象叙述と属性叙述の区別 / 他動性を弱化させるためのストラテジー / チュクチ語の属性叙述 / 新たな展開  
終章 コリャーク語とチュクチ語の今そして未来
「探検」の道は残されているか  
第一節 コリャーク語  
コリャーク語の変容 / 未来に継承されることのない言語 / それでも探検を求めて  
第二節 チュクチ語の変容  
チュクチ語が衰退した背景 / チュクチの言語と文化の未来  
コラム
【1】チュクチ語 / 【2】コリャーク語 / 【3】能格 / 【4】逆受動 / 【5】抱合 / 【6】反転動詞 / 【7】国際音声字母(IPA) / 【8】放出音・吸着音 / 【9】唇音化した有声軟口蓋摩擦音・軟口蓋化の強まった有声両唇接近音・有声両唇軟口蓋摩擦音 / 【10】コリャーク語の母音調和 / 【11】モンゴル語の母音調和 / 【12】母音調和の規則により基底形から導かれる表層形 / 【13】コリャーク語の能格標示 / 【14】能格標識の違いによる名詞の4分類 / 【15】能格標示の違いによる5つの例文 / 【16】能格性を示す結果アスペクトの例 / 【17】能格的な名詞修飾節 / 【18】対格的な等位構文 / 【19】チュクチを激怒させたスコーリクの例文 / 【20】チュクチ語の名詞抱合 / 【21】複合的な抱合による複統合語 / 【22】ことば遊びのなかの複統合語 / 【23】分析形と抱合形で表される「家畜トナカイを殺す」 / 【24】分析形と語彙的接辞で表される「野生トナカイを殺す」 / 【25】分析形,抱合形,語彙的接辞を許容する「魚を殺す」 / 【26】修飾語─動詞─被修飾語の語順 / 【27】2通りの「テントは寒い」 / 【28】日本語や英語における属性叙述の例 / 【29】時間副詞「今」との共起可能性 / 【30】属性叙述形式と事象叙述形式の「家」の表れ方の違い / 【31】日本語標準語における属性叙述と事象叙述の区別 / 【32】青森県南部方言の事象叙述と属性叙述 / 【33】英語の属性叙述と事象叙述 / 【34】属性叙述文における他動性の弱化 / 【35】発話時に起きている動作を表すRK形 / 【36】コリャーク語のKU形に対応するチュクチ語のN形  
あとがき  
引用参考文献  
索  引  


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