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 東アジア詩画の比較文化史桃源の水脈

桃源の水脈 東アジア詩画の比較文化史

四六判 380ページ 上製
定価:3,600円+税
ISBN978-4-8158-0946-1 C3090
奥付の初版発行年月:2019年05月 / 発売日:2019年05月下旬

内容紹介

なぜ懐かしさを感じるのか――。ユートピアでもなくアルカディアでもなく、東アジアの人びとの根源的な夢想と願望に根ざして作り上げられた、平和の小世界。古代中国に発し、詩的トポスとして幾多の詩文や絵画を生み出してきた「桃源郷」の系譜を、現代の日本に掬いとるライフワーク。

前書きなど

いまから四十年あまり前の夏のことである。田中角栄金脈問題などで騒がしい新聞の一隅に、私は次のような小さな報道を見つけて、「おや」と驚き、思いがけず詩的な夢想に誘いこまれるような気がした。それは、『毎日新聞』一九七四年八月十九日付の見だしを借りれば――

  インパール作戦の元日本兵
  「一二〇人が山中で集団生活」説
  タイ紙報道 戦友会が確認要請

という、一見、詩とはなんの関係もない社会面の記事であった。

インパール作戦といえば、第二次世界大戦を知る日本人ならば誰しも胸が痛くなるのを感ぜずには想いおこすこともできぬ、大戦末期最大の悲劇的敗北の一つである。一九四四年三月、牟田口廉也中将麾下の日本ビルマ方面軍第十五軍は、ビルマ西北部のチンドウィン川(Chindwin)を渡って、インド領アッサム高原に進攻し、イギリス=インド軍の守るインパールを六月末まで八十八日間にわたっ……

[「はじめに」冒頭より]

著者プロフィール

芳賀 徹(ハガ トオル)

1931年生まれ 文学博士
東京大学・国際日本文化研究センター名誉教授、京都造形芸術大学名誉学長、
元岡崎市美術博物館・静岡県立美術館館長、日本藝術院会員
著 書 『平賀源内』(朝日新聞社、1981年、サントリー学芸賞)
    『絵画の領分』(朝日新聞社、1984年、大佛次郎賞)
    『與謝蕪村の小さな世界』(中央公論社、1986年)
    『藝術の国日本 画文交響』(角川学芸出版、2010年、蓮如賞)
    『文明としての徳川日本』(筑摩書房、2017年、恩賜賞、日本藝術院
     賞)ほか多数

上記内容は本書刊行時のものです。

目次

I 桃源郷の詩的空間
はじめに――元日本兵と桃源郷
1 トポスとしての桃源郷
2 異郷への橋がかり
3 平和の小共同体
4 桃源における交歓
5 桃源の「溶暗」

II 桃源郷の系譜
はじめに
1 中国詩画における桃源郷
2 日本詩画における桃源のトポス

III 桃源回廊
1 悲劇の桃源画巻――李朝安堅作『夢遊桃源図』
2 春風駘蕩の田園風景――清朝査士標の名品
3 泉湧くほとりの不思議――上田秋成のメルヘン『背振翁伝』
4 桃源小説としての『草枕』――松岡映丘一門によるその解釈
5 「向う側」への夢想譚――佐藤春夫作『西班牙犬の家』
6 東アジアにおける「新しき村」運動――武者小路実篤から周作人、そして毛沢東へ
7 「桃源万歳!」――小川芋銭の農本主義的理想郷
8 桃源喪失の悲嘆――小杉放庵の『桃源漁郎絵巻』
9 末期の桃源郷――辻原登の小説『村の名前』について
10 桃花源余瀝
(1)『ユートピア』と『太陽の都』――合理・管理・統制の石造都市
(2)漫画と歌謡――諸星大二郎とさだまさしの桃花源
(3)「我が幼き日の桃源、いづこぞや」――昭和12年の一高生徒福永武彦
(4)「十五歳の桃源郷」、そして再訪――多田智満子の「片足で立ちあがる虹」
(5)茜さす桃源――洋画家野口謙蔵の蒲生野の子ら

参考文献
あとがき
図版出典一覧
索 引


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