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 20世紀西洋美術と新しい〈現実〉キュビスム芸術史

キュビスム芸術史 20世紀西洋美術と新しい〈現実〉

A5判 692ページ 上製
定価:6,800円+税
ISBN978-4-8158-0937-9 C3071
奥付の初版発行年月:2019年02月 / 発売日:2019年02月下旬

内容紹介

絵画、彫刻、文学、建築などの作品においても、理論や批評の言説においても、多面的かつ国際的な拡がりをもつキュビスム。「幾何学」的表現の誕生・深化から、二度の世界大戦を経て、歴史的評価の確立へと至る曲折に満ちた展開を、美術と〈現実〉との関係を軸に描ききる。

前書きなど

キュビスムは、その名称に含まれる立方体の由来ともなった幾何学的な表現により、もっぱら日常の事物や裸婦像などをモチーフとしながら造形的な実験を繰り返した芸術運動であり、「物語が消滅する」という、それ自体二〇世紀抽象芸術の物語に名を刻んでいる。この物語を支えるのは、美術史における形式主義的な観点にほかならない。美を純粋で自律したものと捉える「形式主義」は、二〇世紀の抽象絵画の制作原理を指し示す場合もあるが、美術史学や美術批評の方法論的立場について用いられる場合には、芸術作品を社会的な事象や、ときには作者の意図からすらも切り離し、もっぱら作品に内在する造形的特徴から様式の展開を捉える態度を意味する。

ニューヨーク近代美術館の初代館長アルフレッド・H・バー・Jrは、こうした形式主義的な観点から一九三六年に『キュビスムと抽象芸術』展を開催した。この展覧会で革新的な試みとしてひときわ注目の的になったのは、二〇世紀美術の系譜を描いたチャートである(図1)。それは抽象芸術の起源としてのキュビスムの位置づけをきわめて明確に視覚化するものだった。バーが描いた歴史のなかで、キュビスムは物語的な主題への無関心を推し進め形式上の革命をひき起こした運動として定義されたのである。

キュビスムが抽象芸術に向かう発展史の起源であるというこの認識は、形式主義的な観点から繰り返され、あたかもひとつの自明の事実のように捉えられてきた。一九四〇年代から活躍し、第二次世界大戦後の現代美術批評界……

[本書「序章」冒頭より/注は省略]

著者プロフィール

松井 裕美(マツイ ヒロミ)

1985年 京都市に生まれる
2008年 東京大学文学部卒業(美術史学)
2010年 東京大学大学院人文社会系研究科修士課程修了(美術史学)
2010-15年 東京大学大学院総合文化研究科博士課程在籍
    (比較文学比較文化)
2011年 パリ西大学ナンテール・ラ・デファンス校修士課程
    (Master 2)修了(美術史学)
2015年 パリ西大学ナンテール・ラ・デファンス校博士課程修了
    (美術史学)
2016年 第5回名古屋大学石田賞受賞
日本学術振興会特別研究員、名古屋大学文学部特任講師、名古屋大学高等研究院特任助教などを経て
現 在 神戸大学大学院国際文化学研究科専任講師
著訳書 Construction et Définition du Corps
    (共編著、Les Éditions du Net、2015年)
    Images de guerres au xxe siècle, du cubisme au surréalisme
    (編著、Les Éditions du Net、2017年)
    ジョルジュ・ディディ=ユベルマン
    『受苦の時間の再モンタージュ』(共訳、ありな書房、2017年)他

上記内容は本書刊行時のものです。

目次

序 章

第Ⅰ部 幾何学による解剖・解体と「概念の現実」の誕生

第1章 キュビスムをめぐる言説
 ―レアリスムとの関係からの考察―
1 プロト・キュビスムから分析的キュビスムまで
2 幾何学をめぐる言説と「概念の現実」
3 キュビスム以前の「現実」への問い

第2章 現実の解剖、解体
 ―分析的キュビスムへの展開―
1 美術解剖学における図式と抽象
2 ピカソと美術解剖学――解剖学から「概念の現実」へ
3 ピュトー・グループにおける様式的展開
4 キュビスム作品における女性身体像

第Ⅰ部結論

第Ⅱ部 キュビスムの文法と詩学

第3章 芸術と詩的アナロジー
 ―総合的キュビスムの文法―
1 二次元と三次元の対話
2 形態的なアナロジーから詩的なアナロジーへ
3 「キュビスム文学」と挿絵本

第4章 機械の詩学
 ―身体のメカニズムの探求からメカニックな身体へ―
1 レジェとグリスにおける生物と無生物のアナロジー
2 デュシャン兄弟、クプカ、ピカビアにおける身体表現
3 ヴォーティシズムにおける「現実」と機械のイメージ

第Ⅱ部結論

第Ⅲ部 キュビスムと第一次世界大戦

第5章 前衛と前線
 ―大戦の「現実」と視覚芸術―
1 前線の風景と従軍画家たち
2 前線の身体とキュビスム

第6章 古典主義とナショナリズム
 ―第一次世界大戦前後の芸術理論と実践―
1 キュビスム理論におけるナショナリズムと第一次世界大戦
2 第一次世界大戦前後のピカソの古典主義

第Ⅲ部結論

第Ⅳ部 新たなる「秩序」へ向けて

第7章 秩序への回帰
 ―大戦間期の美術史モデルとかたちの「生命」―
1 キュビスムの歴史化と見出された「原理」
2 キュビスムの理論的な批判と普遍的な理論の追求
3 キュビスム以降の芸術における新たなる「現実」

第8章 キュビスムの形態学
 ―近代のユートピアと前衛芸術―
1 キュビスム以降の芸術家たちと近代都市
2 ユートピアの創出、あるいはユートピアへの回帰

第Ⅳ部結論

第Ⅴ部 第二次世界大戦前後の政治社会とキュビスム

第9章 大戦の影と文化的地勢図
 ―展示・論争におけるキュビスムの位置づけ―
1 1930年代のフランスにおける現代美術史研究と美術展示
2 レアリスム論争の背景と展開
3 第二次世界大戦下のキュビスム

第10章 キュビスムの生と死
 ―戦後の社会とフランス文化の復興―
1 フランス文化の再建
2 サロン・デ・レアリテ・ヌーヴェル

第Ⅴ部結論

終 章
1 見ることと知ること――認識メカニズムの表現としてのキュビスム
2 理論と歴史――キュビスムと価値システムの構築
3 言葉とイメージ――諸現実の地層の再配置

あとがき
初出一覧

図版一覧
事項索引
人名索引

仏文要旨
仏文目次

関連書

稲賀繁美著『絵画の黄昏―エドゥアール・マネ没後の闘争―』


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