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革新技術の創出と製品化最新 工業化学

最新 工業化学 革新技術の創出と製品化

阿部隆夫:監修, 深瀬康司:編
A5判 338ページ 上製
価格:4,180円 (消費税:380円)
ISBN978-4-501-62730-0 C3050
奥付の初版発行年月:2012年03月 / 発売日:2012年03月上旬

内容紹介

新しい時代の工業化学を担うために、材料や製品の開発に不可欠な技術と基礎知識を習得するための教科書。太陽電池、燃料電池、炭素繊維、有機EL、機能性色素、DNAチップ、再生医療材料、ケミカルトナーといった最先端技術の習得と、そのための基礎(電気化学、繊維化学、有機化学、生物化学、化学工学)をわかりやすく解説。社会で実際に役立っている、あるいはこれからの発展が確実視されている化学工学や化学産業の分野を俯瞰しつつ、その概略を短期間で知るには最適なテキストで、工業化学系大学院の授業や関連企業の研修会などで利用できる

前書きなど

 国の国際競争力アップの源泉にイノベーションが非常に重要であることが,第3期科学技術基本計画などで強調されている。また,企業における研究については,かつてのフォローアップをめざす研究ではなく,フロンティア型の研究が重要視されている。斬新なアイデアに基づく研究を行ない,世界初の独占的技術を生み出すことができるイノベーションを担う人材が,いまや強く求められているのである。
 そのために,学生にとっては基礎学力をつけることが最重要の課題として挙げられる。学部で体系的な学習を通して基礎学力の向上を図り,修士課程で基礎学力の向上に加えてそれを応用し,課題を明らかにしたうえでその解決を図る能力の強化を行なう。博士課程では,さらに強く課題設定能力を養成することが期待される。イノベーションに向かって自己の研究を方向づけるために,修士課程または博士課程に学ぶ大学院生にとって,学術ばかりでなく社会についての知識を得ると同時に体験することが重要である。
 必要な知識として,たとえば知的財産,各種法令,社会情勢,マーケットなどに関するものが挙げられるが,企業の製品開発に関する事例にはこれらに関する多くの知的情報が含まれている。そこで,学生が専門的な学術的知識を増やしていくときに,あわせて企業における研究やイノベーションについての具体的事例を知っておくことは,視野を広げる意味において,次に記す人材像をめざしている。
 ①化学を基盤とするものづくり,イノベーションに魅力を感じ,社会からの期待とニーズを把握し,自らものづくり・イノベーションに携わる意欲にあふれた人材。
 ②幅広い知識をもった専門人を育成し,基礎学力はもちろん応用力,問題設定能力,問題解決能力,実践力などの学力・能力を涵養し,さらにコミュニケーション能力,リーダーシップ,アントレプレナーマインドなどの人間力をあわせもった,社会に通用する人材。
 ③単なる高度な教養と実験技能をもつ人材ではなく,イノベーションの発送ができ,起業精神を持つ人材。
 本書は,以上の考えのもとに企画された。したがって,基礎的な知見に基づく科学書でしばしばとられる分類,すなわち有機化学,無機化学,物理化学,分析化学,高分子化学などのように章立てして論じるのではなく,日常の生活に関係する製品を意識した軸に沿ってまとめることにした。しかし,この軸は多様であり,また複雑に絡み合っているので,どのような軸を選択するべきかについて意見は種々に分かれる。
 本書では,今日の生活のなかで大きなニーズがある技術課題であること,学術的知見がある程度明確にされており教科書のなかで取り上げるものとしてふさわしい課題であること,基礎的な解明段階にとどまることなく製品化に成功した課題であることなどを考慮して,構成の軸を選択した。
 本書の内容については,基礎・学術的知見,材料開発,製品化へのプロセスの側面を意識して,次のように構成した。
 第1章「化学産業とものづくり」では,化学産業の現状を紹介しながら工業化学の全体像について述べる。
 第2章「エネルギー・環境と化学」では,国の施策としても今日重要な位置づけにある太陽電池,リチウムイオン電池,燃料電池について述べる。まず,章の初めの部分でそれらの技術の基礎となる電気化学について理論的観点から説明し,それに引きつづく形で具体的な電池開発の事例を取り上げる。
 第3章「生活と化学」では,私たちの日々の生活に直結する事例のなかから,繊維工業と化粧品の2つを取り上げて述べる。ここで取り上げた2つの技術は,今日私たちの生活を支える重要な産業の基盤となっているものである。
 第4章「情報と化学」では,機能性色素のなかから,有機ELとメモリー材料について取り上げる。20世紀末から今世紀にかけて情報技術の発達はきわめて顕著であって,その進展は現在も継続中である。急激な技術の進歩を支えるためには,新しい化合物の合成開発が不可欠である。そこで,章の初めにおいて新素材の合成に関する基礎的な知見を整理し,次いで表示機能,データ保存機能,画像プリント機能に直結する技術について,技術進展の流れとあわせて説明する。
 第5章「医療(バイオ)と化学」では,われわれの健康,再生医療などと関連する遺伝子工学の現状の解説とともに,DNAチップと化学的知見の必要性はいうまでもなく,また新規材料の開発がつねに求められている。
 第6章「化学工学の活用」では,化学製品の製造技術の基本となる分離や混合などの基礎的なことがらを説明する。プリンタ用のトナーは第4章に直接関係する材料であるが,近年実用化されたケミカルトナーの性能はとくに製造方法に強く依存する。そこで,化学工学の側面から電子写真方式のプリンタ用ケミカルトナーを取り上げて詳しく述べることとした。
 第7章「工業化学の発展と生活の向上」では,化学分野の研究者・技術者として化学物質の取り扱いについて知っておかなければならないことが多くあるが,それらの一端を説明する。また,今後の化学産業の発展していく方向について,府省から発表されているロードマップを参考にして考察し,本書で述べたことの総括を行なう。

 修士課程および博士課程の大学院生はいうまでもなく,企業で研究開発や生産技術部門で業務に従事する研究者・技術者の皆さんにとっても,本書が役に立つことを切に願う。
 最後に,本書をまとめるにあたって協力していただいた執筆者の皆さん,大学および企業の関係者の皆さんに感謝申し上げる。とくに森川英明氏,藤本哲也氏,高橋伸英氏(いずれも信州大学)には中核にあって本書の作成のために奔走していただいた。お名前を記して感謝申し上げたい。
 2012年2月10日
 阿部隆夫
 深瀬康司


目次

第1章 ものづくりと化学産業
 1.1 イノベーションとものづくり
 1.2 コア技術展開によるイノベーション
 1.3 化学産業の現状と将来
 1.4 資源エネルギー環境問題に対する化学の貢献の期待
第2章 エネルギー・環境と化学
 2.1 電気化学の基礎
 2.2 有機薄膜太陽電池
 2.3 リチウムイオン二次電池
 2.4 燃料電池
第3章 生活と化学
 3.1 繊維化学の基礎
 3.2 炭素繊維
 3.3 機能性繊維
 3.4 機能性化粧品
第4章 情報と化学
 4.1 化学ものづくりにおける有機化学
 4.2 有機EL
 4.3 機能性色素と応用
第5章 医療(バイオ)と化学
 5.1 生物化学・遺伝子
 5.2 DNAチップ
 5.3 再生医療材料
第6章 化学工学の活用
 6.1 化学工学基礎
 6.2 ケミカルトナー
第7章 工業化学の発展と生活の向上
 7.1 工業化学の発展の道程
 7.2 化学の研究者・技術者の責任
 7.3 化学工業の将来展望
 7.4 本書のまとめ
索 引


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