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タンパク質と生命活動の化学アミノ酸

アミノ酸 タンパク質と生命活動の化学

A5判 280ページ 上製
価格:4,180円 (消費税:380円)
ISBN978-4-501-62470-5 C3043
奥付の初版発行年月:2009年07月 / 発売日:2009年08月上旬

前書きなど

 この本をまとめることに至ったいきさつについて書いておきたい。
 筆者の専門領域は天然物化学であり,薬用植物の有効成分や抗生物質などの化学研究に従事してきた。薬用植物の有効成分や抗生物質などの生物活性成分はうまく活用すれば薬となるし,使い方を誤れば毒となる。そこで私は,生物活性成分のこのような性質や人類との関係に関する本として,これまでに『アルカロイド—毒と薬の宝庫—』(共立出版)や『図解雑学 毒の化学』(ナツメ社),『毒と薬の科学—毒から見た薬・薬から見た毒—』(朝倉書店),そして,『毒と薬の世界史』(中公新書)などを執筆してきた。
 これまでの研究経験やこれらの本を執筆することにより,生物活性成分にはアミノ酸やペプチド(タンパク質),アルカロイドがおおいに関係し,きわめて重要な役割を果たしていることを改めて痛感した。ペプチド(タンパク質)はもちろんアミノ酸から成り立っているが,本書を見ていただければわかってもらえるように,アルカロイドの多くもアミノ酸由来なのである。たとえば,私たちのからだで神経伝達物質としてはたらいているアセチルコリンやノルアドレナリン,セロトニン,そして植物由来のモルヒネやコカインなどはアルカロイドに分類される化合物であるが,それぞれにアミノ酸が導入されて生合成されている。ということは,アミノ酸は生物活性成分の領域で鍵となるきわめて重要な化合物群であるということになる。
 アミノ酸は,私たちにとってとても身近な天然有機化合物でもある。私たちの筋肉や内臓,血管,皮膚,毛髪など,成人では体重の約20%に及ぶタンパク質は,アミノ酸なしではつくられない。タンパク質を構成するアミノ酸は全部で20種類であるが,これらのアミノ酸はタンパク質を構成するだけではない。たとえば,化学調味料としてよく知られている「味の素」の正体はL−グルタミン酸のモノナトリウム塩であるし,カニの甘みの主成分はグリシンである,コールドパーマの原理には毛髪のタンパク質中のL−システインが深く関与している。いわば,これらタンパク質構成アミノ酸20種のそれぞれにドラマがあるといえる。
 そして,アミノ酸は生命活動の根源にもかかわっている。たとえば,各種の酵素はタンパク質であるから,当然,タンパク質構成アミノ酸を起源としているし,遺伝子を構成するDNAやRNA,光合成や呼吸にかかわるのみならず,分子中にアミノ酸が導入されることがわかっている。すなわち,アミノ酸なくして生命活動はありえず,アミノ酸こそ生命活動の根源を担っているということができよう。
 一方,近年めざましい進歩をとげたアミノ酸工業は,アミノ酸の新しい応用法として,医療方面ではアミノ酸混合物の点滴剤(高カロリー輸液)の開発や家畜の飼料へのアミノ酸添加の実用化につながった。これらの技術は,生命の危機に瀕した多くの命を救い,また家畜の飼料の改良につながって多くの命を養っている。また,アミノ酸を利用したスキンケア製品や肌にやさしいシャンプーなどの市場も急成長を遂げている。たとえば,生糸にはL−セリンが大量に含まれるが,L−セリンは保湿性にすぐれており,化粧用の素材として使われる。いわゆる,絹由来の化粧品である。アミノ酸にはじつに多方面の使い途があり,21世紀はアミノ酸の世紀ともいわれる。
 以上,述べてきたように,アミノ酸,とくにタンパク質を構成する20種類のアミノ酸は,生命そのものや生命活動に深く関係し,現代生活においても種々の応用が可能なきわめて重要な化合物群である。よって,これらのそれぞれのアミノ酸のドラマについてまとめた成書が,すでに数多く出版されていそうなものである。ところが,きわめて不思議なことに,いざ探してみると,これらのタンパク質を構成する全アミノ酸20種の来歴や物性,生物活性全般を含むエピソードをコンパクトに解説した適当な本を見つけだすことはできなかった。そこで私はまず,タンパク質構成アミノ酸20種すべてについてのエピソードのほか,これらのアミノ酸を起源として生合成される主要なアルカロイド,そして,タンパク質構成アミノ酸以外のアミノ酸のうち私たちの生活や産業に深く結びついたアミノ酸についてまとめてみることにした。
 こうしてできあがったのが本書である。この本はコンパクトさを保つために網羅的とすることを避けた。たとえば,この本はタンパク質構成アミノ酸全20種についてはすべてとりあげている。しかし,それ以外のアミノ酸,これを異常アミノ酸ということがあり,現在までに約700種類ほどが見いだされているが,この本ではこれらの異常アミノ酸を網羅するようなことはせず,代表的なものを紹介するにとどめた。異常アミノ酸は今後も発見され続けるであろうが,本書にまとめたタンパク質構成アミノ酸と代表的な異常アミノ酸の理解はたやすいはずである。
 この本の執筆にあたっては,執筆の提案に始まり,素案の段階から本として完成に至るまで,東京電機大学出版局の浦山毅氏にたいへんお世話になった。原稿が書きあがるまで,励ましつつ辛抱強く見守ってくださったことを含め,記して厚く御礼申し上げる。
 2009年初夏
 緑深いキャンパス内の研究室にて
 著者識


目次

第1章 アミノ酸とは
 1.1 アミノ酸の定義と存在
 1.2 アミノ酸の立体化学
 1.3 アミノ酸・ペプチドの分析と合成
 1.4 ペプチドの合成法
第2章 タンパク質構成アミノ酸
 2.1 タンパク質構成アミノ酸発見の歴史
 2.2 タンパク質を構成するアミノ酸の分類
 2.3 タンパク質構成アミノ酸各論
 2.4 タンパク質を構成するアミノ酸の生合成と代謝
 2.5 タンパク質を構成するアミノ酸の調製
第3章 アミノ酸由来のアルカロイド
 3.1 アルカロイドの分類とアルカロイドの起源となるアミノ酸
 3.2 芳香族アミノ酸由来のアルカロイド
 3.3 脂肪族アミノ酸由来のアルカロイド
 3.4 プリンおよびピジミジン骨格を有するアルカロイド
 3.5 擬(プソイド)アルカロイド
第4章 生活や産業に深く結びついたアミノ酸
 4.1 味覚とアミノ酸
 4.2 美容・健康とアミノ酸
 4.3 医薬品とアミノ酸
 4.4 有毒ペプチドと有毒タンパク質
 4.5 アミノ酸と高分子化学
参考文献
索 引


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