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人とロボットの〈間〉をデザインする

人とロボットの〈間〉をデザインする

A5判 314ページ 上製
価格:4,400円 (消費税:400円)
ISBN978-4-501-54380-8 C3053
奥付の初版発行年月:2007年12月 / 発売日:2007年12月上旬

内容紹介

心理学などの知見も取り込んで解説.

前書きなど

 現在世界で,そして特に日本において,ロボットや擬人化エージェントが一般のオフィスや家庭に普及し始めている.介護ロボット,レスキューロボットなどの社会的なニーズがあるものから個人のホビーとしての二足歩行ロボットまで,さまざまなロボットがメディアをにぎわしている.また,秘書や動物の姿でユーザを支援するソフトウエアエージェント,いわゆる擬人化エージェントは,物理的な体をもつロボット以上にいろいろな職場や家庭のパソコンの画面上に現れては人を助けたり,時にはわずらわせたりしている.このような状況はここ最近のことであり,今後もロボットや擬人化エージェントがさらに職場や家庭に普及していくことは間違いないであろう.
 しかし,いろいろな個性をもつ一般ユーザーがロボットや擬人化エージェントと接するようになると,これまで設計者やエンジニアが想定してなかったようなことが起こる.そのため,一般ユーザに使ってもらう,あるいは一般ユーザと協調作業をするということを十分に考えてロボットや擬人化エージェントを設計をしなければ,すぐに使われなくなったり悪印象をもたれたりしてしまう.しかしながら.人間とロボットや擬人化エージェントの間にどのようなインタラクションをデザインすればうまく付き合っていけるかという問題は,現在,十分に研究,検討されてはいない.
 本書「人とロボットの<間>をデザインする」は,まさにこの問いに答えることを目的とし,人間であるユーザとロボットや擬人化エージェントの<間>,つまり<インタラクション>をいかにデザインするかについて,その方法論と最先端の刺激的な研究を解説したものである.筆者は,ここ数年もともとの専門である人工知能の機械学習やプランニングの研究から,人間とエージェントのインタラクションデザインヘとフォーカスを移し,新しい研究分野であるヒューマンエージェントインタラクションHAI (Human−Agent Interaction)の開拓に尽力してきた.HAIではロボットと擬人化エージェントを広く「エージェント」と呼び,人間とエージェントの<間>のデザイン,つまり人間とエージェントのインタラクションデザインを分野横断的に扱う.そこでは,人間−擬人化エージェント,人間−ロボット,そして人間−人間の三つのインタラクションを設計対象とし,それらのデザインにおける共通要素,差異の解明,設計指針の構築を目指して,さまざまな研究が展開している.本書は,そのHAI研究を総括するものであり,関係する研究者や理工系学生は言うに及ばず,エンジニアリング,工業デザインにたずさわるより広い分野の方々に, HAIの問題意識,方法論,さまざまな研究を理解してもらい,利用していただくことを目的としている.
 本書は,HAIの概観から三つのインタラクションデザインについて具体的研究例を紹介する4部構成となっている.まず,第1部「HAIの概念と方法」では,HAIの問題設定,目的,そして方法論がわかりやすく説明されている.続く,第2部「人間と擬人化エージェントのインタラクションデザイン」では,ITACOプロジェクト,非言語情報に関する研究が紹介される.そして,第3部「人間とロボットのインタラクションデザイン」では,人間とロボットのインタラクションデザインであるヒューマンロボットインタラクションHRIに関連する非常に斬新な三つの研究が解説されている.最後の第4部「人間と人間のインタラクションデザイン」では,HAIの扱う三番目のインタラクションである「人間と人間のインタラクション」について,人間同士の役割分担やロボット,擬人化エージェントを介した人間同士のコミュニケーション形成について,三つの興味深い研究が紹介される.
 読者が本書をきっかけとして,人間とロボットや擬人化エージェントのインタラクションデザインに興味をもち,さらには新たなエージェントの研究,製品開発に役に立つ知見を本書から得ることができれば,著者としてこれに勝る喜びはない.
 最後に,本書の構想段階から熱心に相談にのっていただき,また出版までのすべてのプロセスでご尽力いただいた菊地雅之氏(東京電機大学出版局)に感謝いたします.また,本書の執筆者の多くがそのメンバーでもある,イデア(l⊿EA:Interaction DEsign for Adaptation)研究会のメンバー諸氏,そしてほかでもない原稿〆切をきっちり守っていただいた本書の執筆者全員に心より感謝いたします.

 2007年11月
 山田誠二


目次

第1部 HAIの概念と方法
 第1章 HAIとは何か
  1.1 エージェントがやってきた!
  1.2 HAIは何を目指すか?
  1.3 これまでの研究分野との関連
  1.4 HAIの応用
  参考文献
 第2章 HAIの方法論
  2.1 エージェントの外見と機能
  2.2 心の心理
  2.3 人間とエージェントのスタンス
  2.4 メディアイクエーション
  2.5 エージェントの学習
  2.6 相互適応
  参考文献
第2部 人間と擬人化エージェントのインタラクションデザイン
 第3章 「憑依」するエージェント—ITACOプロジェクトの展開
  3.1 ITACOプロジェクトとは
  3.2 ITACOシステム
  3.3 エージェントのロボットへの「憑依」と認知プロセス
  3.4 エージェントの家電への「憑依」と愛着関係
  3.5 情動を喚起するインタラクションデザイン
  参考文献
 第4章 エージェントによるしぐさと視線のコミュニケーション
  4.1 会話エージェントとは何か?
  4.2 人間同士のコミュニケーションに見るしぐさと視線の重要性
  4.3 エージェント会話の実装
  4.4 会話エージェントによる非言語コミュニケーションの有効性
  4.5 会話エージェント研究のさらなる発展に向けて
  参考文献
 第5章 人間の直感を揺さぶるエージェント
  5.1 人間の直感とその認知とは
  5.2 音声情報に対する直感的な認知
  5.3 視覚情報に対する直感的な認知
  5.4 人間の直感的な認知を揺さぶるエージェントとは
  参考文献
第3部 人間とロボットのインタラクションデザイン
 第6章 家具・家電・日用品をエージェント化する
  6.1 エージェント化とインタラクション
  6.2 家具・家電・日用品の擬人化
  6.3 擬人化を促進するデバイスの開発
  6.4 エージェント化による人間とのインタラクション
  6.5 エージェント化されたものの身体イメージ
  6.6 エージェント化された環境への期待
  参考文献
 第7章 人間に負担のないロボットとの協調作業
  7.1 人間に合わせるか合わせないか
  7.2 人間と協調する人工物
  7.3 人間と協調する人工物の設計方法
  7.4 人間と協調する掃除ロボット
  7.5 掃除ロボットを使うときの負担
  7.6 人間と協調する人工物との共生
 第8章 意図的な機械
  8.1 人間と機械の間の不協和
  8.2 心的姿勢と振舞いの解釈
  8.3 スタンスと意図伝達
  8.4 意図性を誘発する要因
  8.5 理解可能な振舞いの設計
  参考文献
第4部 人間と人間のインタラクションデザイン
 第9章 人と向きあうエージェント,人と人をつなげるエージェント—療育現場のケーススタディ
  9.1 コミュニケーション発達とその障害
  9.2 ぬいぐるみロボットKeepon
  9.3 療育現場でのインタラクション観察
  9.4 人と向きあう・人と人をつなげる
  9.5 ロボットによる療育支援に向けて
  参考文献
 第10章 人と人のコラボレーション
  10.1 メタなサジェスチョンの有効性
  10.2 メタのサジェスチョンの有効性の実験的検討
  参考文献
 第11章 エージェントメディエイテッドインタラクション
  11.1 社会的存在としての認知
  11.2 身体的インタラクションの場
  11.3 未知の存在との遭遇
  11.4 共身体化インタラクション
  11.5 HAI研究と人らしさ
  参考文献
索引
著者略歴


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