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理論と実際生産管理工学

生産管理工学 理論と実際

A5判 272ページ 上製
価格:3,520円 (消費税:320円)
ISBN978-4-501-41810-6 C3053
奥付の初版発行年月:2009年04月 / 発売日:2009年04月中旬

前書きなど

 日本は,1945年に終結した第二次世界大戦によって壊滅的な打撃を受け,戦後,あらゆる産業はゼロからのスタートになった。そのうえ,国土が狭く資源とエネルギーが少ないことは,大きなハンディとなっていたことはよく知られていた。この日本を,世界が驚愕する経済大国に押し上げた原動力は,その豊富な人口と勤勉性に基づく「物づくり」であったが,一方でそれを大きく支えたものにアメリカから導入された生産管理と品質管理システムがある。戦前アメリカで発達した近代的生産管理技術は,アメリカとの工業生産力の決定的な違いを戦後の日本に認識させた。日本は,昭和20年代前半にこの品質管理の手法を導入し,昭和30年代に入ってからの高度成長期を経て,世界に冠たる品質管理手法を実践した生産管理を行った。その結果,自動車,電気電子産業をはじめとして,高い品質の工業製品を算出するようになり,自動車産業においては,生産台数世界一の企業も誕生している。日本は戦後最も生産管理と品質管理技術の進んだ国となったが,1980年代後半から起こった金融バブル経済は国民に物づくりを忘れさせ,その結果,日本の将来をも危うくした。とくに理工系学部を卒業した学生の多くが,金融・証券業に就職を行ったことなどはその典型であった。しかし,バブル経済崩壊後に生じた一連の金融破綻などを経験し,21世紀に日本が生き残るためには,やはり物づくりが基本であることが再び叫ばれている。この結果,物づくりを目指し,理工学部卒の学生の本来の製造業への就職回帰が進んでいる。
 世界に誇る生産管理技術ではあるが,高度成長期が終わり,さらにバブル経済崩壊後の製造メーカーにおいては,日本の生産管理の基礎である全社的品質管理(TQC),さらに世界を驚愕させたジャストインタイム方式(JIT)などが曲がり角に達しているといわれている。その一方で,国際規格のISO 9000fによる品質保証システム,ISO 14000fをもとにした地球規模の環境保全を考えた生産システムの構築など,多くの日本企業は,品質(Q)コスト(C)および納期(D)を第一目標にした生産活動から,「地球に優しい,環境に優しい」ことを最重点にした企業運営への変革を余儀なくされている。しかし,このように生産活動における生産・品質管理を取り巻く環境は激変しているものの,従来から使用されている統計的手法などを用いた品質管理の重要性が今後も変わることはない。また,労働環境や形態においては,終身雇用と年功序列が崩れ始め,正規社員から非正規社員,つまりパート社員,派遣社員,請負労働などへ大きく変化し,格差を生じて社会問題にもなっている。
 ところで,生産管理および品質管理に関係して数多くの優れた参考書が発刊されているが,ほとんどは品質管理,あるいは統計的手法のいずれかに力点が置かれ,理工科系の大学生,工業高等専門学校生,専門学校生あるいは企業における技術者の入門書としては,内容が高度かつ専門的になりすぎるきらいがあった。また,生産管理に関する著書においても,製造メーカーの研究開発部門のみならず,現在日本の大きな柱であるサービス産業にとっても非常に重要な工業所有権法,「人に優しい物づくり」として制定された製造物責任法(PL法),工業運営の新しい形態である総合的生産保全(TPM),さらに品質保証と環境保全を考慮した国際規格(ISO)を含めて記述した参考書は少ない。
 本書初版ではこれらの点を考慮し,「現代の生産管理,品質管理とは何か」を目的に,理工科系学生や技術者に対し,入門書として基本的な事柄を一冊で効率良くかつ理解しやすいようにまとめた。しかし,諸般の事情により,今回改定を行うことになった。とくに,従来の参考書では記述の少なかった工業所有権よりも広い知的財産権,特許をめぐる話題を記載している。さらに今日の企業経営に重要な製造物責任法(PL法),ISOに関する項目も含めてわかりやすくまとめた。また,生産方式の変化,企業形態の変化,企業を取り巻くリサイクルに関する情報などについても記載している。本書ではさらに,文科系の学生や技術者の方々にも読みやすいことを心がけて著作している。内容は,著者の民間企業在職時の知識や経験,ならびに教員生活における広義などをもとに記述したが,数多くの文献も参考にさせていただいた。また,友人の方々にも有益なご助言と資料提供などを通じてご援助いただいている。ここにあわせて皆様にお礼申し上げる次第です。
 内容につきましては,NECセミコンダクターズ山形(株)人事総務部エキスパート斎藤由一様ならびに三菱電機プラントエンジニアリング(株)岩沙好二様から,懇切丁寧なるご助言とご指導を賜りました。また,兵庫県立大学工学部機械工学科准教授木村真晃博士には,有益なご助言をいただきました。両氏に深甚なる感謝を申し上げます。出版に際して,東京電機大学出版局植村八潮氏ならびに石沢岳彦氏にご尽力をいただきました。お礼申し上げます。
 本書によって生産管理に関して理解を深めていただければ幸いです。

 2009年3月
 著者


目次

第1章 生産管理と品質管理
 1.1 生産と品質と管理
 1.2 生産管理と品質管理の歴史
 1.3 生産管理と品質管理の基礎
第2章 統計的手法の基礎
 2.1 統計的なものの考え方
 2.2 統計的検定
 2.3 統計的推定
 2.4 相関と回帰
第3章 統計的管理と実験計画
 3.1 管理図法
 3.2 検査法
 3.3 実験計画と分散分析
 3.4 実験計画法
第4章 工業管理
 4.1 生産組織と生産計画
 4.2 工程管理と作業研究
 4.3 動作研究
 4.4 設備と運搬の管理
第5章 工業会計とその他の管理
 5.1 原価管理と損益分岐点
 5.2 購買管理
 5.3 外注管理と倉庫管理
 5.4 減価償却
 5.5 人事管理
 5.6 安全管理と環境管理
第6章 知的財産権
 6.1 知的財産権と工業所有権
 6.2 特許
 6.3 実用新案,意匠,商標とサービスマーク
第7章 工業運営に必要なその他の管理
 7.1 総合的生産保全
 7.2 製造物責任
 7.3 企業活動と国際規格
 7.4 企業活動とリサイクル
付表
索引

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正誤表


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