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 電池の仕組みから状態推定までバッテリマネジメント工学

バッテリマネジメント工学 電池の仕組みから状態推定まで

足立修一:編著, 廣田幸嗣:編著, 丸田一郎:他著
A5判 248ページ 並製
定価:3,200円+税
ISBN978-4-501-11720-7 C3054
奥付の初版発行年月:2015年12月 / 発売日:2015年12月上旬

内容紹介

電池の進歩により、バッテリを電源とするエレクトロニクス機器が増えており、安定的な電源システムの構築にバッテリマネジメントの重要性が高まっている。バッテリマネジメントを理解するには、電池の知識に加え、回路設計やシステム制御の各知識を理解する必要がある。これら複数の学問体系にまたがる新しい分野を誤解なく習得できるよう、本書にて専門用語を整理しわかりやすくまとめた。カルマンフィルタのプログラムも掲載。

前書きなど

 1990年代初頭に,小型で大容量のニッケル水素電池やリチウムイオン電池が相次いで商品化され,ノートパソコン,携帯電話,スマートフォンなど身近な家電製品において,以前にも増して電池はなくてはならないものになった.1990年代後半にはハイブリッド自動車が,21世紀に入ると電気自動車も商品化され,自動車産業においても電池は非常に重要なエネルギー源になってきた.このように,われわれの生活は電池(バッテリ)の恩恵を受けており,電池なしで日常生活を送ることはほとんど不可能になってきている.
 電池を電源とするエレクトロニクス機器が増えたことによって,製品開発の現場では,電子回路や制御技術のエンジニアと電気化学のエンジニアとが共同作業を行う機会が増えてきた.しかし,細分化が進む理工系分野においてしばしば遭遇することであるが,専門用語や考え方の違いがあって,互いのコミュニケーションは必ずしも円滑でなく,このことが高度なシステムインテグレーションの障害要因の一つになっている.
 一例を挙げてみよう.回路設計をするときは,回路シミュレータの利用が必須である.受動素子や半導体デバイスの多くは,メーカーからデバイスモデルが提供されていて,温度変化や経時劣化による特性の変更を組み込んだチェックを容易に実施できる.しかし,電池メーカーからの電池に関するデバイスモデルのサポートは,現状では一般に不十分である.そのため,回路設計者は,低電圧電源に適当な内部抵抗を入れる程度で電池モデルを近似することが多い.
 日本は素材や部品の技術レベルは高いが,システム技術が弱いと言われることがある.電池も同様で,明治時代からの長い歴史があり,電池の素材や部品の技術レベルは高いが,電池の状態推定などの利用技術では,必ずしも優位ではなかった.欧米では,航空機や軍事衛星などの防衛宇宙産業での基幹システム(いわゆるmission critical application)が,電池の高度利用技術を促進してきた.日本ではこのような市場が小さいため,関心が薄かったのかもしれない.しかし,これからは非軍事分野においても,電池の高度システム化技術がコアコンピタンスの一つになっていくだろう.
 このような背景から,本書では,電池本体の電気化学的な物性の側面(本書ではこれを広い意味で「物理の世界」と呼ぶ)の両面から,電池,特にリチウムイオン二次電池を解説することを目的とする.
 具体的には,次の2点を目指した.

 (1)電子回路や制御エンジニアに電池の物理化学的な仕組みを理解してもらうために,できるだけ平易に,本質的なポイントに絞って化学電池の基礎を解説する.
 (2)電気化学のエンジニアにバッテリマネジメントシステムを理解してもらうために,システム工学の基礎であるモデリングと状態推定の理論から,MATLABによる理論の実装化までを解説する.

 さて,電池に限らず,「物理」の重要性は,本書で強調するまでもなく,工学の分野や技術の現場では理解されにくいだろう.一方,近年では,ビッグデータに代表されるように,「情報」の重要性も再認識されてきた.重要な点は,物理と情報を単体で活用するのではなく,両者をうまく融合させることである.
 このような物理と情報を融合したアプローチの重要性が,近年,幅広い分野で認識されてきた.その中において,本書で取り扱う電池は,「物理」,すなわち電池内部での現象と,「情報」,すなわち電池から測定可能な端子電圧と電流のデータを総動員して取り組む典型的な対象である.そのため,本書は,物理と情報の融合を目指す学問の実践的なテキストとして位置づけることもできるだろう.

 本書の構成と執筆担当者は,以下のとおりである.
 第1章(廣田,三原,馬場,足立)では,電池とバッテリマネジメントの概要について述べる.
 第2章(廣田,三原)では,高度な応用システムにおいて,電池の性能を最大限に引き出しつつ,高い信頼性を実現するために必要な,化学電池の基礎を解説する.電子回路や制御エンジニアにとっては,難易度の高い章であるが,対象とするシステム,すなわち,電池の物性を理解することは,もっとも重要な出発点である.
 第3章(押上)では,バッテリマネジメントシステムの基本構成について解説する.特に,バッテリマネジメントシステムの自動車への応用例を中心に述べる.
 引き続く第4~6章では,システム工学の立場から電池を解説する.
 第4章(足立,丸田)では,電池のためのシステム工学について解説する.電池の数学モデルを構築するためのモデリング理論,特に,システム同定について,最新の成果を盛り込んで解説する.また,得られたモデルに基づいて電池の状態を推定する際に利用するカルマンフィルタについても,簡単に紹介する.
 第5章(馬場,丸田)では,具体的に電池のモデリングについて解説する.特に,物理現象を考慮したシステム同定法であるグレーボックスモデリングを用いた電池のモデリング法を紹介する.
 第6章(馬場,丸田)では,電池の状態推定について解説する.特に,電池の充電率(SOC)を,カルマンフィルタを用いて推定する方法について,詳しく解説する.

 本書は廣田が企画し,廣田・足立で共同編集する予定であったが,諸般の事情で,最終的には足立一人で編集作業を行った.不勉強のため,本書にはミスが存在するかもしれない.それはすべて足立の責任であり,修正点があればご連絡をいただけると幸いである.
 最後に,構想段階から議論していただいた慶應義塾大学理工学部物理情報工学科足立研究室,株式会社日産アーク,そしてカルソニックカンセイ株式会社の関係各位に厚く感謝いたします.本書を出版するにあたりご尽力いただいた東京電機大学出版局の吉田拓歩氏に深く感謝いたします.

2015年11月
編者 足立修一・廣田幸嗣


目次

第1章 電池とバッテリマネジメントの概要
 1.1 電池の様々な応用分野
 1.2 化学電池の概要
 1.3 電池の外部特性
 1.4 バッテリ電源システム
 参考文献
第2章 化学電池の基礎
 2.1 鉛蓄電池
 2.2 リチウムイオン二次電池
 2.3 電解液における主な現象
 2.4 電解液の電流電圧特性
 2.5 電極界面の反応
 2.6 電池の電流電圧特性
 参考文献
第3章 バッテリマネジメントの基本構成
 3.1 保護・安全確保のための制御
 3.2 性能確保のための制御
 3.3 電池寿命確保のための制御
 3.4 リチウムイオン電池の充電方法
 3.5 BMSの具体的な構成
 3.6 バッテリシステムの応用例
 参考文献
第4章 電池のためのシステム工学
 4.1 システム工学のあらまし
 4.2 システムのモデリング
 4.3 システムの記述
 4.4 システム同定によるモデリング
 4.5 カルマンフィルタによるシステムの状態推定
 4.6 システムとして見た電池
 参考文献
第5章 電池のモデリング
 5.1 電池モデルの基本構成
 5.2 ブラックボックスモデリング
 5.3 グレーボックスモデリング
 5.4 物理現象を考慮した電池モデルのまとめ
 5.5 連続時間システム同定の電池への応用
 5.6 付録:ファラデーインピーダンスの展開
 参考文献
第6章 電池の状態推定
 6.1 電池の状態推定
 6.2 モデルに基づくSOC推定
 6.3 今後の課題
 参考文献
索引
コラム
 ・リチウムイオン電池
 ・電池の歴史


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