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信頼の政治理論

信頼の政治理論

A5判 726ページ 上製
定価:8,800円+税
ISBN978-4-8158-0960-7 C3031
奥付の初版発行年月:2019年09月 / 発売日:2019年09月中旬

内容紹介

市民社会と国家を媒介する概念と見なされる「信頼」──良好な政治のミクロな指標として注目を集める一方、従来の信頼論が前提とする認識論やアプローチは深刻な問題を抱えている。ソーシャル・キャピタル論へ至る学説を乗り越えた先に、革新的な政治理論を導き出す気鋭の力作。

前書きなど

「信頼」という言葉には独特の引力がある。信頼するということは、何か良いこと、望ましいことを表しているように思われる。人と人は信頼し合うべきだ、社会には信頼が溢れているべきだという主張に対して、反対する人などまずいない。他方で、信頼は意識しなくてもなんとなく達成されてしまっている、社会生活の事実であるようにも思われる。街ゆく人びと、タクシーの運転手、医者、仕事の同僚たちを少しも信頼することができなければ、普通の社会生活は困難であろう。逆に言えば、普通の社会生活を送っているかぎり、信頼はすでに存在していることになる。つまり、信頼は、望ましくもあり、あたりまえでもある。このような、規範性と事実性との同居こそが、信頼という概念のまわりに人を惹きつける磁場が形づくられる原因だと考えられる。私たちは「信頼」という言葉によって、何か社会生活の核心に触れたような感じがするのだ。

政治学において信頼という概念が浸透したのも、煎じ詰めれば同じ理由からだろう。「構造」や「国家」や「制度」といった堅苦しい言葉で表現される政治のコアな部分を、身近でありふれた社会関係から捉え返してみると同時に、そこに望ましい政治を作るための処方箋も読み込もうと言うのである。とりわけコアな政治がうまくいっていないように思われるときには、信頼概念の引力は強力なものになる。「政治のパフォーマンスは実は信頼に依拠している。われわれの社会にはより多くの信頼が必要だ」と言われれば、なるほどそうかもしれない、と納得できそうである。どんなかたちであれ信頼はすでにこの社会に存在しているものだから、望ましい政治への処方箋として考えた場合、「構造を変革すべし」よりは「より多くの信頼を」の方がハードルとして低そうでもある。……

[「はじめに」冒頭より]

著者プロフィール

西山 真司(ニシヤマ シンジ)

1983年 愛知県に生まれる
2014年 名古屋大学大学院法学研究科博士後期課程満期退学
名古屋大学男女共同参画センター研究員などを経て
現 在 関西大学政策創造学部准教授、博士(法学)
著 書 『政治理論とは何か』(共著、風行社、2014年)
    『信頼を考える』(共著、勁草書房、2018年)他

上記内容は本書刊行時のものです。

目次

はじめに
凡 例

序 章 予備的考察
第1節 政治学における信頼論の現状と課題
 1 信頼論の学際性と政治学
 2 既存の枠組みを「補完」するもの?
 3 政治学の有意性と規範的な政策論
第2節 1960年代の政治文化論
 1 アーモンドによる政治理論としての政治文化論
 2 政治文化論と信頼論の連続性と差異
第3節 本書における政治理論の地位
 1 科学としての政治学をめぐる論争――フライヴァーグとレイテンの事例
 2 世界観としての政治理論
 3 政治理論における妥当性の問題
第4節 本書における分析の進め方

第I部 政治文化論の再検討

第1章 学説史上の政治文化論とその問題構成
第1節 政治文化論における問題構成の原基的な形態
 1 トクヴィルの習俗論
 2 バンフィールドのエートス論
第2節 60年代型政治文化論の背景としての行動論政治学
第3節 比較政治学の確立期における機能主義および文化論的アプローチ

第2章 初期・中期パーソンズの社会理論と文化概念
第1節 パーソンズ理論の基本的モティーフ――主意主義的行為の理論へ
第2節 中期パーソンズの社会理論――構造‐機能主義的システム理論と文化概念
 1 主意主義的行為の理論からシステム理論へ
 2 構造‐機能主義
 3 分析カテゴリーとしての文化概念と「中期」パーソンズ理論の性質

第3章 政治文化論の成立と衰退
第1節 60年代型政治文化論の成立過程
 1 政治文化概念の誕生――「比較政治システム」(1956年)論文
 2 機能主義的政治システム論――「比較政治に向けた機能主義アプローチ」(1960年)
 3 政治文化論研究の金字塔――アーモンドとヴァーバによる『市民文化』(1963年)
第2節 60年代型政治文化論の衰退と理論的性格

第4章 新たな理論構築に向けた内在的契機と展望
第1節 「意味」としての政治文化
 1 政治文化論における分岐と接合――合理的選択理論と解釈主義
 2 『市民文化』以降のアーモンド学派
 3 パーソンズ理論における「意味」と文化
第2節 権力としての政治文化

小 括 第I部の意義と第II部での課題

第II部 信頼論の問題構成と理論的基礎

第5章 信頼論における問題構成の形成とその背景
第1節 パットナムの『民主主義を機能させる』
第2節 学説史のなかのパットナム
 1 『民主主義を機能させる』の方法論上の性格
 2 政治文化論から信頼論へ――トクヴィル的な伝統の再解釈
第3節 パットナムへの批判と国家/市民社会論
 1 パットナムの信頼論における“国家の不在”
 2 国家/市民社会論という問題構成の性質

第6章 信頼論の理論的基礎とその展開
第1節 ソーシャル・キャピタル概念
 1 ソーシャル・キャピタル概念以前の『民主主義を機能させる』
 2 コールマンのソーシャル・キャピタル論
 3 ソーシャル・キャピタル論の構成要素
第2節 1990年代以降の信頼論の諸形態
 1 対人間での信頼について
 2 信頼と信任の相互規定的な性質について
 3 ソーシャル・キャピタルが政治のあり方を左右する
 4 ソーシャル・キャピタルが経済成長を可能にする
 5 国家・制度に対する信任について
 6 政治制度への信任が経済成長を可能にする
 7 政治制度が対人間での信頼を可能にする
第3節 ロスステインの信頼論と政治理論上の課題
 1 福祉国家と対人間での信頼
 2 パットナム批判と信頼を政治学的に説明すること
 3 「集合的記憶」――合理主義と文化主義のあいだ
 4 ロスステインにおける政治理論上の課題

小 括 第II部の結論と第III部に向けて

第III部 信頼研究のためのあらたな政治理論

第7章 理論的基礎に関するオルタナティヴ
第1節 政治学内部でのあらたな潮流
 1 国家/市民社会論から日常性の政治へ
 2 制度論の変化と構成主義
第2節 「意味」の系譜(1)――現象学的社会理論
 1 現象学的社会学とその特徴
 2 現象学的社会理論から信頼論への知見
第3節 「意味」の系譜(2)――エスノメソドロジー
 1 現象学的社会理論からエスノメソドロジーへ
 2 エスノメソドロジーの方針
 3 エスノメソドロジーへの批判と応答
第4節 日常言語学派と心の哲学
 1 ライルによる心身二元論への批判
 2 心の哲学と経験的な研究への指針
 3 社会科学研究における概念分析の地位――ウィンチを中心に

第8章 問題構成の再定式化
第1節 第I部および第II部からの検討課題の引き継ぎ
 1 第I部からの検討課題
 2 第II部からの検討課題
第2節 政治学における信頼論の展望と応用例
 1 ルーマン理論の利用について
 2 エスノグラフィーと政治学
 3 『支配のあいまいさ』

終 章 本書のまとめと意義

あとがき

参考文献
図表一覧
索 引


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