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 変貌する社会と建築物の詩学家のイングランド

家のイングランド 変貌する社会と建築物の詩学

A5判 418ページ 上製
定価:5,400円+税
ISBN978-4-8158-0959-1 C3098
奥付の初版発行年月:2019年08月 / 発売日:2019年09月上旬

内容紹介

建築物に積み重なる経験と記憶に寄り添うとき、そこには何が見えてくるのか。カントリー・ハウスや田舎家(コテッジ)、郊外住宅から、都市の闇としてのスラムまで、テクストが描きだす多様な建築表象を歴史的・社会的文脈の中で読み解き、「イングリッシュな家」の神話を問い直す画期的な建築文学論。

前書きなど

イングリッシュなコテッジ

『イングランドのコテッジ・ホーム』(一九〇九年)という美しい挿絵入りの本がある。イングランドにおけるコテッジの歴史を概説したものだが、ページをめくるたびに、柔らかな陽光が降り注ぎ、牧場や畑に広がる風景のなかに、慎ましやかな家屋と花が咲き乱れる庭があり、住人たちがそこにたたずみ、談笑している光景に出会う。子供たちが戯れ、犬や鶏も牧歌的な時間のなかで遊歩している。挿絵を手がけたのは、カーライルやテニソンなど文人とも親交が深かった女性画家ヘレン・アリンガムである。文章はスチュワート・ディックが書いている。華美でもないし、形式張っているわけでもない、地面から生えたように雑然とした自然なたたずまいの民家は、いかにも「イングリッシュな」ものだ。

「質素な」「素朴な」あるいは「家庭的な」を意味する“homely”は否定的なニュアンスで用いられることが多いが、それをあえてコテッジの美徳の形容として頻用しながら、ディックは地味で古いコテッジこそ「イングランド……

[「序章」冒頭より/注は省略]

著者プロフィール

大石 和欣(オオイシ カズヨシ)

1968年 静岡県に生まれる
1994年 東京大学大学院人文社会系研究科修士課程修了
1997年 オクスフォード大学大学院英文科M. Phil.修了
2002年 オクスフォード大学大学院英文科D. Phil.修了
名古屋大学准教授などを経て
現 在 東京大学大学院総合文化研究科教授
著 書 Coleridge, Romanticism, and the Orient(共編、Bloomsbury、2013)他

上記内容は本書刊行時のものです。

目次

序 章 イングリッシュな家のハビトゥス
1 イングリッシュな家と文学
2 歴史と建築と文学
3 本書の骨組

第1章 闇の奥の家
 ――スラムをめぐるまなざしと表象――
1 ディストピアの言説
2 スラムと中流階級の家の対比
3 チャリティを通して見つめた都市の最暗部
4 「退化」と「恐怖」でつながるスラムと上品な邸宅
5 覗き見趣味の巡礼

第2章 スラムに聳えるネオ・ゴシック建築
 ――夢に終わった中世の理想――
1 封建主義の復権
2 田園主義の具現
3 ピクチャレスクな過去と現在
4 「自由」と「秩序」と「雅量」と
 ――ラスキンがゴシック建築に見出したもの
5 モダンな中世主義――ウィリアム・モリスの『ユートピアだより』
6 スラムの跡地のネオ・ゴシック住宅

第3章 「混濁」した郊外と家
 ――不可解な空間――
1 ユートピアの幻影――解釈できない空間
2 「ピクチャレスク」の変質
3 「没場所」としての郊外を読み直す
4 郊外を流離う夏目金之助
5 帝国内の異空間とマイホーム主義

第4章 イングリッシュな農家屋
 ――遺産の継承と社会――
1 「イングリッシュな農家屋」というハビトゥス
2 流転する都市の景観
3 田園への回帰
4 田園都市の誕生
5 「イングリッシュな家」の創造
6 「つなぎとめる」建築物
7 帝国の陰影

第5章 「空っぽの貝殻」
 ――消えゆくカントリー・ハウスの幻影――
1 消えたカントリー・ハウス
2 戦間期の不安――ダロウェイ夫人が感じる闇
3 空虚な屋敷の原型
4 回想のなかのカントリー・ハウス――デュ・モーリアの『レベッカ』
5 かつて僕はそこにいた――記憶のなかのブライズヘッド
6 空洞化する「威厳」――カズオ・イシグロの『日の名残り』
7 カントリー・ハウスの現在と未来

第6章 建築物の詩学
 ――ジョン・ベッチャマンと歴史的建築物――
1 奇矯なる国民詩人
2 裏街道を迷走する
3 建築物の詩学
4 新生ゴシック建築
5 盟友ジョン・パイパー
6 ベッチャマンの教会賛美
7 鉄道マニアとしてのベッチャマン
8 ベッドフォード・パークの戦い
9 伝統の再編成

想い出の家――あとがきにかえて

引用文献
図版一覧
索 引


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