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 ドストエフスキーとニヒリズム『白痴』を読む

『白痴』を読む ドストエフスキーとニヒリズム

四六判 258ページ 上製
定価:3,200円+税
ISBN978-4-7985-0108-6 C1098
奥付の初版発行年月:2013年09月 / 発売日:2013年09月上旬

内容紹介

あまりにも鋭い人間的洞察力を与えられたとき,人間は白痴のように見えるのかも知れない。『白痴』の主人公ムイシキン公爵は癲癇という病気のもとに神秘的とまで見える洞察力をもって19世紀ロシアを遍歴する。近代の大都会に跳梁する道化群像の只中にあって,彼ひとり揺るがぬ魂のユートピアを願って生きる。しかし恐るべき愛憎の渦へと巻き込まれて破滅の運命をたどることになる。謙抑に満ち,人を裁くことのない無垢の魂が,何故悲劇をとどめ得なかったか。『白痴』という小説の謎はその一点にきわまるが,それは公爵のうちなる虚無の感触によるのではないか。宇宙との諧調を求めて求められない,宇宙のなかでひとり排除されているという戦慄的畏怖の想い,これほどナイーヴで,誠実きわまりない共苦する魂は世界文学でも稀有なものだが,本書はその魂の謎をその虚無の想いによって解読する。なお映画化したものとして国際的に評価の高い黒澤明監督作品『白痴』の創作方法への考察も付して,日本人のドストエフスキー理解の深さを紹介している。

第13回笹渕友一記念日本キリスト教文学会賞(研究・評論部門)受賞

出版部から一言

第13回(2014年)笹渕友一記念日本キリスト教文学会賞(研究・評論部門)受賞

著者プロフィール

清水 孝純(シミズ タカヨシ)

1930年東京に生れる。東京大学大学院比較文学比較文化博士課程を修了後,
日本大学講師を経て,1969年九州大学教養部助教授,1976年同教授。
同大学退職後,福岡大学人文学部教授を経て,現在九州大学名誉教授。
主要著作
 『小林秀雄とフランス象徴主義』(審美社)
 『ドストエフスキー・ノート  『罪と罰』の世界』(九州大学出版会,第1回池田健太郎賞受賞)
 『鑑賞日本現代文学16 小林秀雄』(角川書店)
 『西洋文学への招待  中世の幻想と笑い  』(九州大学出版会)
 『祝祭空間の想像力』(講談社学術文庫)
 『漱石 その反オイディプス的世界』(翰林書房)
 『道化の風景  ドストエフスキーを読む』(九州大学出版会)
 『笑いのユートピア  「吾輩は猫である」の世界』(翰林書房,第11回やまなし文学賞受賞)
 『カラマーゾフの兄弟』を読む(九州大学出版会,全3巻)
   I  交響する群像
   II 闇の王国・光の王国
  III 新たなる出発
 『ルネサンスの文学』(講談社学術文庫)
 その他論文多数

上記内容は本書刊行時のものです。

目次

 はじめに

第1章 主人公としてのニヒリズム

   1 憑依としてのニヒリズム
   2 唯物論的キリスト観
   3 ドストエフスキーにおけるニヒリズムの特色
   4 ニヒリズム形成の契機
   5 『白痴』の真の主人公
   6 至純の諧調という陥穽
   7 若きニヒリストの論理と心情

第2章 ニヒリズム超克へのい

   1 虚無という宙吊り空間における足場
   2 刹那に賭ける
   3 自己破壊という復讐
   4 ラゴージンの虚無感覚
   5 ロシア人の信仰
   6 ナスターシャの狂気
   7 憐憫の限界
   8 虚無の荒野
   9 世界を覆うニヒリズム
   10 ロシアのキリスト
   11 虚無への捨身

第3章 背景としてのニヒリズムと外来思想

  I 背景としてのニヒリズム
   1 全能の神としての黄金信仰
   2 ラゴージンと金
   3 公爵を襲った新世代
   4 残酷な犯罪の影
   5 ジェマーリン事件とラゴージン
   6 試されるものとしての公爵
  II ロシア社会と外来思想
   1 憑依する思想による虚偽
   2 ナスターシャの場合
   3 アグラーヤの場合
   4 公爵の孤独

第4章 虚の空間に生きる道化群像

  序 虚の空間に生きるもの
  I  シニシズムの権化フェルディシチェンコ
  II イヴォルギン将軍
   1 虚言に生きる男
   2 人間を篩い分けるもの
   3 卓抜なアネクドートの虚実
   4 リア王のごとく世界に背かれて
  III レーベジェフ
   1 世界を活性化するもの
   2 異形のサンチョ・パンサ
   3 無神論への滑稽な挑戦者
   4 「生命の源泉」はなにか
   5 告白への衝動
   6 道化的言説を超えて現れるもの
   7 紛失事件にみるレーベジェフの道化的言語
   8 道化的癒やしの術
   9 ロシア的大地の道化を演ずるレーベジェフ

第5章 ドラマを推し進めるもの

   1 『白痴』におけるプロットの特質
   2 並列する挿話とムイシキンの性格
   3 挿話と挿話を結ぶもの
   4 狂気への捨身

第6章 我々の庭を耕そう

   1 歓喜あふれるラゴージン
   2 ムイシキンの無限の優しさ
   3 ムイシキンによって選別された人々
   4 『白痴』から『悪霊』へ

付論 黒澤明の映画『白痴』の戦略

   はじめに
   1 黒澤明にとってのロシア文学、とくにドストエフスキー
   2 映画化への障壁
   3 黒澤の戦略
   4 『白痴』はどのように翻案されたか
   5 映画『白痴』の象徴性
   6 雪・石・ナイフ・目という映像的戦略
   7 那須妙子とナスターシャ
   8 対決というドラマを構成するもの
   9 二つのメロディーの持つ陰影
   10 黒澤独自の工夫
   11 映画『白痴』以降

 あとがき

関連リンク

『白痴 1』 ドストエフスキー 著, 亀山郁夫 訳, 光文社刊


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